私は幼い頃から財布が好きで、いわば財布マニアのようなものでした。
世界的なハイブランドから国内の有名ブランド、そして名の知れた職人さんの財布まで、さまざまなものを実際に手に取り、使ってきました。
既製品だけではなく、「こういう財布が欲しい」というところから一から形を相談し、素材や仕様を決めてカスタムメイドしたこともあります。
そのため、「こういう財布はないだろうか」と相談されたときには、用途や素材なども含めて、いろいろな選択肢をご提案できる程度には、財布というものを見て、使ってきたつもりです。
また、世界でもトップクラスの技術を持つ職人の方々と交流する機会にも恵まれ、そうした方々が作る作品にも触れてきました。
私自身にも、特に好きな財布の形がいくつかあります。
「いつか自分でも、こんな財布を作ってみたい」
そう思うこともあります。
しかし、そんな私が今使っている財布は、仕切りなどがほとんどない、シンプルながま口です。
そんな中で、私が財布について強く感じるようになったことがあります。
一番使いやすい財布は、人によって違う。
当たり前のことのようですが、財布には、カードの枚数、お札の枚数、小銭の量、持ち歩くものの種類など、その人によってさまざまな違いがあります。
だからこそ、どれだけよく考えられた財布であっても、その構造によって「こう使う」という使い方が決められてしまいます。
もちろん、それが悪いわけではありません。
カードを整理するための仕切りや、小銭を取り出しやすくする構造など、便利な仕組みには、それぞれ明確な意味があります。
私はこれまで、そうした便利な構造や伝統的な構造を含め、さまざまな財布を見てきました。
そして、財布には本当にたくさんの形があることを知りました。
ただ、自分自身が実際に使い続ける中で、少し違う考えにたどり着きました。
何もない「無」の空間のほうが、自分の使い方を自由に決められる。
仕切りがなければ、「カードはここに入れなければならない」という決まりもありません。
お札や小銭も、その日の持ち物や量に合わせて、自分なりの使い方ができます。
財布そのものに使い方を決めてもらうのではなく、自分が財布の使い方を決める。
その自由さが、私にとってはとても心地よく、ストレスがありませんでした。
そして不思議なことに、もともと長財布を使っていた私のパートナーも、同じようにシンプルながま口を使うようになりました。
これは、あくまで私たち自身が使ってみて感じたことです。
便利な機能がたくさん付いた財布が好きな方もいれば、細かく整理できる財布が好きな方もいる。
逆に、できるだけ何もない財布が好きな方もいる。
財布は毎日使うものだからこそ、「どちらが正しい」というものではないのだと思います。
だから私は、単純に「何もない財布が一番良い」と言いたいわけではありません。
むしろ、自分にとって本当に必要なものは何なのかを考えた結果、「何もないこと」に価値を感じるようになったということなのだと思います。
これからは、このシンプルながま口をベースに、さまざまなギミックや構造も試していきたいと思っています。
ただ、試しているうちに、
「これは面白いけれど、自分なら使わないな」
と思ったものは、すぐに使わなくなってしまいます。
機能を増やすこと自体は、決して難しいことではありません。
しかし、本当に必要なものだけを残すことは、思っている以上に難しい。
だからこそ、なかなか製品として形にならないこともあります。
それでも、ただ便利なものを作るのではなく、自分自身が実際に使い続けたいと思えるもの。
そして、使う人それぞれが自分自身の使い方を見つけられるようなもの。
そんな財布を作ることができればと思っています。
これからも試行錯誤を繰り返しながら、本当に良いと思えるものだけを形にできるよう、研究を続けていきたいと思います。













