がま口の魅力に深く惹かれてから、私の中に一つの強い願いが芽生えていました。
「どこにもない、唯一無二のがま口を作りたい」
世の中には、たくさんのがま口があります。
古典的なもの、現代的なもの、装飾の凝ったもの、シンプルなもの。
けれど、私が「これだ」と思える完璧ながま口には、まだ出会っていませんでした。
それなら、自分で作ってしまおうと思いました。
そこから、長い試作の日々が始まりました。
私が目指したのは、「機能性」「見た目」「耐久性」のすべてを兼ね備えたがま口です。
一般的な革のがま口には、いくつかの弱点があります。
袋を縫い合わせる工程で、どうしても内側に突起ができてしまうこと。
型崩れしやすく、シルエットが歪んでしまうこと。革が薄いと耐久性が下がること。
これらの弱点を、ひとつずつ潰していきたいと考えました。
製図に没頭する日々が続きました。
製図台、ペンと紙、定規とコンパスを使って、何度も何度も型紙を引き直しました。
1ミリ修正しては、革を裁って、組み上げて、確かめる。
ひとつの問題を解決すると、別の問題が見えてくる。
それをまた修正して、また組み上げる。
気づけば、試作の数は200回を超えていました。
そして、2022年の冬。
ついに、私の理想とするがま口が完成しました。
特許構造を内蔵したことで、内部に突起のない滑らかな仕上がりを実現しました。
何度作っても姿形のブレが少なく、型崩れもしない。
革は通常の数倍使い、適度な厚みを持たせることで、手に馴染む心地よさと、軽さを両立しました。
そのフォルムは、りんごや赤ちゃんのおしりのような、ぷっくりとした愛らしさを持っていました。
これに名前をつける必要がありました。
フランス語で「りんご」を意味する「ポム」と、赤ちゃん言葉で「おしり」を意味する「ポポタン」。
このふたつを組み合わせて、「ポムデポポタン」と名付けました。
完成した直後、私は信頼する革職人の方に、こっそりこの作品を見てもらいました。
その方は、世界でもトップクラスの技術を持つ革職人さんで、構造や知的財産の知識にも詳しい方です。
私は緊張しながら、ポムデポポタンを見ていただきました。
職人さんの反応は、想像以上のものでした。
「こんなものは、見たことがない」
「これは、絶対に意匠を取るべきだ」
そう強く勧めていただいたのです。
「初めての作品が、こんなにやばいものを見せてくるとは思わなかった」
そんな言葉までいただきました。
普段から多くの作品を見ている方からの、その反応。私は、そのときに「いいものが作れたんだ」と確信しました。
その後、特許事務所に通い、特許権・意匠権・商標権の取得に動きました。
長い手続きを経て、ポムデポポタンは正式に権利化されました。
ポムデポポタンは、立体商標を取得しています。
商品の「形」そのものを商標として登録するこの制度は、認められる壁が非常に高く、日本でたどり着けた例はごくわずか。
Hermès(エルメス)のバーキンやケリーが、その数少ない一つです。
立体商標は、更新を重ねるかぎり半永久的に守られます。
期限のある意匠権や特許とは異なり、その形を守る権利が尽きることはありません。
この形を作れるのは、自分だけです。
ライセンス契約を結んでいないため、ポムデポポタンの製造と販売は、VOUIVREのみが行っています。
200回以上の試作の果てに、ようやくたどり着いた一品。
ポムデポポタンは、私にとって、職人としての出発点を示す作品となりました。
その後も改良を重ね、試作の数は現在400回を超えています。
完成は、終わりではありません。
そんなポムデポポタンは県内中枢にある特別な応接室に展示されています。

